第10章 アサーションを身に付ける

パワハラ被害に遭っている方に、ぜひ身に付けてほしい自己主張法があります。「アサーション」と呼ばれるものです。

実用性を重んじるアメリカ発祥の自己主張法であり、差別撤廃や、人権回復運動の中で広まってきたものです。そのため、パワハラ被害者のように理不尽に虐げられている人にこそ、必要な自己表現スキルだと、私は思っています。

【1】アサーションとは何か

アサーションは、自分も相手も尊重した自己表現の方法です。

自分も相手も尊重する自己主張とは、自分にも相手にも、我慢を強要しない自己主張ということでもあります。

パワハラ被害者にとって、特に大切となるのが「自分が我慢しない」というところです。パワハラ被害を受けている人の多くは、組織や加害者に対して、パワハラ行為を止めるように主張していません。自分が我慢してしまっているのです。これはアサーションでは「非主張的」な自己表現と言います。

一方で、加害者は「攻撃的」な自己表現をしています。

加害者が「攻撃的」な自己主張をし、被害者が「非主張的」であれば、その関係はどんどん強く固定化されることになります。

【2】アサーティブな自己表現とはどのようなものか

一方で、アサーションとは、自分も他人も尊重する自己表現です。「非主張的」となり自分が我慢するのではなく、「攻撃的」となり相手を我慢させるのでもない自己主張法です。

それは、たとえば次のような自己主張の仕方です。

  • 他人から中傷を受けたとき、「それは事実に基づかない発言のため、驚き、また傷つきました。訂正していただけないでしょうか。」と主張する。
  • パワハラ加害者に対して、「そのような言い方をされると悲しいです。訂正していただけませんか?」と主張する。
  • 「決めつけた言い方をされると、腹が立ちます。別の言い方をしてください。」と主張する。

自分が主張したいことを主張しながらも、攻撃的ではない自己主張をするのです。

【3】アサーションの基本は、事実を述べること

アサーションの基本は、”事実を述べること”です。

この事実には2つあります。1つは客観的な事実、もう1つは主観的な事実です。客観的にどのような事実があったかを述べることと、どのような気持ちになったかを述べることです。たとえば、「先ほどあなたは、私に対して『無能だ』と言いましたが(客観)、それを聞いて私はとても腹が立ちました。(主観)」というような言い方が、アサーティブなものです。

【4】事実は反論しにくい

客観的な事実、主観的な事実を述べることのよい点は、相手方が反論をしにくいことです。

事実に対して反論をするのは、簡単ではありません。「太陽は東から上ります。」という主張に対して、反論するのは困難です。同様に、「悲しいです」という主張に対して、反論するのも困難です。客観的であれ、主観的であれ、”事実”は反論がしにくいものなのです。

相手方が反論をしにくい形式の主張ですので、相手方からの反論に対して恐怖心を持ちにくいのです。たとえば、「遅れそうなときは先に連絡をください。」と言うのは棘が立ちそうで難しくても、「とても言いにくいのですが(主観)、5分の遅刻ですね(客観)。次からは、遅れそうなときは先に連絡をいただきたいです(主観)」という形式なら、言いやすくなります。

【5】アサーションに関する権利や、哲学、型がある。

アサーションは、とても役立つ自己主張方法です。また、アサーションの根本にはしっかりとした哲学・理論があり、さらに技術的にもさまざまな型(モデル)があります。

しかし、最初から型を学ぶよりも”客観的事実、または主観的を述べる”という基本を練習したほうが、実践で使いやすくなると私は考えています。

もし、深く学びたい方はまず次の書籍をお勧めします。

改訂版 アサーション・トレーニング ―さわやかな〈自己表現〉のために | 平木 典子 |本 | 通販 | Amazon

その上で、アサーションは技術ですので、やはり実践練習を繰り返していくことになります。

簡単に身につけられる技術ではありませんが、加害者に対して主張をしていくとき、とても役立つ技術です。

もし興味があれば、ぜひ取り組んでみてください。

【6】アサーティブな表現だからこそ、仲間を募れる(平成29年7月21日追記)

私は、加害者が暴言を吐いてきたら、暴言で返してもよいと思っています。

相手が誰であろうと、人と人は対等な立場です。ですから、他人が自分にすることは、自分がその他人にしてもよいはずだと、私は考えています。

しかし、それでもアサーティブな表現方法を使えるなら、それを使った方がよいとは思います。

アサーティブな自己表現をするほうが、味方を作りやすいからです。ぞんざいな言葉ではなくて、丁寧に、かつ毅然と言い返すほうが、信頼を得やすいからです。

あなたがアサーティブであればあるほど、仲間を募りやすくなります。

ですから、仲間を得たいと思っている場合は、アサーティブな表現を心掛けましょう。

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
目次 はじめに 第1章 パワハラは、法律上の用語ではない 第2章 パワハラの定義 第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由 第4章 パワハラの証拠の集め方 第5章「パワハラ解決」とは何か 第6章「目的」と「状況」によって、取るべき手段は異なる 第7章 取るべき手段を実行できない理由 第8章 パワハラは学習性無力感を生む 第9章 リスクに備える 第10章 アサーションを身に付ける 第11章 パワハラ後遺症に対処する おわりに 【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。
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