第2章 パワハラの定義

平成29年5月17日現在、パワハラには法律上の定義がありません。しかし、パワハラは社会問題化しているため、各行政がパワハラ対策に乗り出しています。そこで、パワハラ対策に取り組んでいる各行政が、独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。

行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。ですので、各行政の出しているパワハラの定義を知っておくことに損はありません。

さらに、現在の自分が受けているものが”パワハラ”と言えるのかどうかについても、各行政の定義を知ることによって自信が持てるようになります。自分はいまパワハラを受けていると自覚することが、パワハラ対策の一歩です。まずは確認をしておきましょう。

 

【1】行政が、独自にパワハラの定義を出している。

現在、パワハラには法律上の定義はありません。しかし、パワハラは悲しい事件によって有名になり、社会問題化しています。そこで、厚生労働省、法務省などの各省庁が対策に取り組み始めています。

しかし、法律上の定義がないため、各省庁が自らの管轄に合わせてパワハラの定義を出しています。そのため厚生労働省のいうパワハラと、法務省がいうパワハラは別物です。さらに、都道府県や市町村、教育委員会のいうパワハラも全く同じではありません。行政の間でも、パワハラについての統一的な定義はないのです。

行政機関の中でもパワハラの定義は統一はされていませんが、現在パワハラの定義として最も有名なものは、厚生労働省が出している定義です。これは「職場のパワー・ハラスメントに関する円卓会議ワーキンググループ」という有識者会議によって、裁判例などを研究の上で出された定義です。そのため、一般的にパワハラの定義と言えば、厚生労働省の出している次の定義とされます。

職場のパワーハラスメントとは

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

 

一般的には上記のとおり、厚生労働省の定義が使われます。しかし、パワハラ対策には法務省も取り組んでおり、言い換えると法務省に相談をすることもできます。そのため、法務省の定義も知っておくのがよいでしょう。

何がパワハラか
パワハラは、法令上は明確に定義されていません。何がパワハラなのか、いまだ不明確な部分もあります。しかし、一般的には「職場内での地位や権限を利用したいじめ」を指し、「職権などの優位にある権限を背景に、本来の業務範囲を超え、継続的に、相手の人格と尊厳を侵害する言動を行い、就労環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること」などと言われることもあります。

http://www.moj.go.jp/jinkennet/asahikawa/pawahara.pdf

厚生労働省の定義では、継続性は意図的にのぞかれていますが、法務省の定義では継続性が残っています。ただし、下記のとおり、1~2回の言動でもパワハラに相当することもありうることは認めています。しかし、原則としてはやはり、法務省は継続的に行われたものをパワハラだと認定するということです。言い換えれば、法務省に相談にいくときは、パワハラが継続的に行われていることを示す必要性が高いということです。

●継続的に
1~2回の言動でもパワハラに相当することもあり得ますが、通常は執ように繰り返すことがパワハラの条件となります。

国家公務員がパワハラを受けた場合、厚生労働省は管轄外となります。そのため、労働局での相談は受付されません。国家公務員のパワハラ相談先は人事院です。人事院も独自にパワハラの定義を出しています。

「パワー・ハラスメント」については、法令上の定義はありませんが、
一般に「職務上の地位や権限又は職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、人格と尊厳を侵害する言動を行い、精神的・身体的苦痛を与え、あるいは職場環境を悪化させること」を指すといわれています。

この定義は、厚生労働省の定義をもとに作られていますが、「人格と尊厳を侵害する言動を行い」という要件が追加されています。言い換えると、原則としては、「人格と尊厳を侵害する言動」に該当しない場合は、パワハラに該当しないとの判断をすることになります。

 

【2】相談先の定義を確認しておく。

パワハラについては上記のとおり、法律上の定義はありません。そして、行政間でも定義は異なっています。

しかし、「パワハラは受け手の認識だけで成立する」という主張は、法的には明らかな間違いです。使用者は労働者に対して、指揮命令権があるので、たとえ労働者が「パワーハラスメントだ!」と思っても、”業務の適正な範囲”の内側であれば、それはパワーハラスメントではありません。
法的な主張については、国家機関が出しているものを引用しているかどうかを確認するようにしましょう。

行政機関にパワハラの相談に行く場合は、先にその行政機関のパワハラの定義を確認しておくことが大切となります。行政機関はその職務性質上、公平さを重んじるため、定義に該当しない場合については、基本的には対応してもらえないからです。

ですから、パワハラについて行政機関に相談にいく場合は、まずは相談先の定義を調べるようにしましょう。

”パワーハラスメントは受け手の認識だけで成立します”という、法的に絶対間違っていることを書いている社労士を発見してビックリ。

こういう間違った主張が、「何でもパワハラになる社会はおかしい」という主張を生み出します。

 

【3】そもそも、どこに相談に行けばよいのか

なお、パワハラについての相談先は、次のURLを参考にしてください。厚生労働省のサイト「明るい職場応援団」のページです。

相談窓口のご案内|あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-
あかるい職場応援団は職場のパワーハラスメント(パワハラ)、いじめ・嫌がらせ問題の予防・解決に向けた情報提供のためのポータルサイトです。

相談先が見つかったら、まずは自分が受けている被害がパワハラに該当するかどうかをメールや電話で相談してみましょう。

外部の相談機関に相談するのは、実は大きな心理的なハードルがあってなかなかできません。相談することさえ怖いものなのです。ですから、相談する練習として、匿名で電話やメールで、こういうちょっとした相談をしておきましょう。

【4】パワハラの定義に該当すると知ることから始まる

モラル・ハラスメントの被害者は、自分がモラル・ハラスメントを受けていると気づいていない場合があります。同様に、パワハラを受けていても、それに気づいていない場合もあります。

また、自分が受けているものをパワハラだと言ってよいかどうか確信が持てない状況では、動き出すことも難しくなります。つまり、パワハラの定義を知ることがパワハラ解決の第一歩となるのです。

厚生労働省のサイト「あかるい職場応援団」には、パワハラについてのチェックをするページもあります。あなたが受けているものがパワハラに該当するかどうかについて、一度チェックしてみるとよいと思います。

 

なお、厚労省のパワハラの定義では、《職場環境を悪化させる行為》もパワハラに該当します。

ですから、あなたが直接に暴言を受けていなくても、あなたの職場の仲間がパワハラに該当する行為を受けていれば、あなたもパワハラ被害者だと言っていいのです。 なぜならそれは、職場環境を悪化させる行為だからです。

パワハラは、職場環境を悪化させます。心理的安全性を奪い、生産性を著しく下げてしまいます。ですから、もし同僚がパワハラで困っていたら、あなたがパワハラを受けているものだと考えて、動き始めましょう。

【5】パワハラの典型例-パワハラの6類型

厚生労働省は「パワハラの6類型」というものを提示しています。

この6類型に該当するからといってパワハラだとは言えません。しかし、パワハラに該当する可能性がある類型です。

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

それぞれの詳細については、下記のページをご覧いただくのが一番です。

ただ、「人間関係からの切り離し」は、パワハラだと気づきにくいものですので、ぜひ一度目を通しておいてほしいところです。

【7】「人間関係からの切り離し」は、被害を自覚しにくいので注意

「人間関係からの切り離し」は、被害者が自覚を持ちにくい類型のパワハラです。たとえば、”挨拶を無視する”というのはよくあるパワハラ行為ですが、これをパワハラだと認識している人は少ないのではないでしょうか。

”挨拶を無視する”というのは、本当によくあるパワハラです。特に、先生系に多いパワハラです。学校(高校、大学)、病院(医科、歯科)、介護施設、保育園について、相談を受けたことがあります。

「人間関係からの切り離し」の例としては、”直接的なコミュニケーションを拒否する”というものもあります。口頭で連絡すればよいものをメールでするようになったり、仲介者を介して指示などがなされるようになるというものです。

他にも”必要な連絡を意図的にしない”というものも、この類型のパワハラです。業務上必要な連絡なのに、連絡が回ってこなくなる。そして、連絡が来なかったことによるミスは、自分のせいにされるというのが、典型です。

自分だけ席を離されるという事例も、実際に相談を受けたことがあります。わざわざ机を移動してまで、席を離すのです。当然、指示はメールで、嫌味や悪口が聞こえてきます。そういう陰湿な嫌がらせは、まだまだ普通にあります。

「人間関係からの切り離し」類型のパワハラには、ほぼ間違いなく「過小な要求」または「過大な要求」がセットとなっています。まったく仕事をさせないか、膨大な量の仕事をさせるか、です。多いのは過小な要求の過大な要求型です。つまり、意思疎通が不要な仕事を膨大に渡されるわけです。

「人間関係からの切り離し」という類型は、上記のように陰湿な攻撃ですがパワハラだと認識されることが少ないものの1つです。

【8】豊田真由子議員の言動は「精神的な攻撃」

富田真由子議員の言動は、厚労省の定義では「精神的な攻撃」という類型のパワハラに該当します。

「精神的な攻撃」は、”原則としてパワハラに当たる”と考えられる類型です。業務を遂行するのに必要なものとは通常、考えられないからです。

今回の案件が示したのは録音の重要さです。被害メモは大切ですが、やはり録音はリアリティが違います。特に、「精神的な攻撃」の類型のパワハラは録音しやすいので、できるかぎり録音を心掛けたほうがよいでしょう。

最初は録音をすることさえ怖いと思いますが、ぜひ取り組むようにしてください。

「やめてしまえ」などの社員としての地位を脅かす言葉、「おまえは小学生並みだな」「無能」などの侮辱、名誉棄損に当たる言葉、「バカ」「アホ」といったひどい暴言は、業務の指示の中で言われたとしても、業務を遂行するのに必要な言葉とは通常考えられません。
このため、こうした暴言による精神的な攻撃は、原則として業務の適正な範囲を超えてパワハラに当たると考えられます。

 

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
目次 はじめに 第1章 パワハラは、法律上の用語ではない 第2章 パワハラの定義 第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由 第4章 パワハラの証拠の集め方 第5章「パワハラ解決」とは何か 第6章「目的」と「状況」によって、取るべき手段は異なる 第7章 取るべき手段を実行できない理由 第8章 パワハラは学習性無力感を生む 第9章 リスクに備える 第10章 アサーションを身に付ける 第11章 パワハラ後遺症に対処する おわりに 【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。
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