第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由

パワハラには、法律上の定義はありません。そして、行政機関間に統一的な定義もありません。

そのため、行政機関に動いてもらいたいときは、その行政機関の「パワハラの定義」に該当することを証明しなくてはなりません

そして行政は中立ですので、加害者、被害者のどちらか一方につくわけにはいきません。逆に言えば、行政が動くのはあなたの主張が客観的にも信ぴょう性が高いと判断されたときだけです。

しかし、通常、パワハラを客観的に示す証拠は残りません。ほとんどのパワハラは、日々の言動による攻撃であり、日々の言動の積み重ねによる攻撃です。インターネット上でのやり取りであれば簡単に記録は残りますが、リアルでのパワハラは通常、記録が残っていません。そのため、被害者が積極的に証拠集めを行う必要があるのです。

さらに、証拠は職場内での味方・仲間を増やすのにも必要です。パワハラがその職場内で行われていても、それによってあなたがどれだけの被害を受けているのかは周囲の人にはわかりません。その被害の深刻さを伝えるためにも、証拠を積み上げていくことが大切となるのです。

パワハラ解決においては、多くの場合、証拠集めは必須の作業となります。自分の心身を守るために、証拠を集めていきましょう。

 

【1】行政機関は中立

相談機関は、確かにあなたを助けるべき機関です。しかし、最初からあなたの味方ではありません。行政の立場はもともとが中立ですから、あなたに肩入れはできないのです。

よく「行政に相談したけれど、何の役にも立たなかった」という人がいます。たしかに、相談機関と銘打っている以上は相談者の立場に立ってほしいとは思いますが、行政はそのようなことができないのです。行政が自らが動いたことを正当化できるように、あなたがしなければなりません。

行政が動くために必要となるのは、あなたがパワハラ被害を受けている証拠と、あなたが行政に対して動くように求めている証拠です。行政の相談担当者が、上司に稟議をかけるために必要な資料をあなたが用意してあげるのです。

 

【2】パワハラは「言動」なので、証拠が残りにくい

行政に動いてもらうには、パワハラの証拠が必要です。しかし、パワハラは「言動」ですので、証拠が残りにくいのです。

インターネット上でのやり取りであれば、ほぼ間違いなく何かしらの記録が残ります。メールやLINEでパワハラ言動が行われている場合は、その証拠保全は簡単です。

しかし、加害者も通常、そのようなことはしません。証拠が残らない形でパワハラ行為が行われます。もしくは、1つ1つの言動を小さなものにして、そのパワハラ言動を小さいものに見せようとします。たとえば、「お前は本当に無能だな!」と怒鳴ったら間違いなくアウトですが、「頭のつくりが違うようですね」と言えばそれは状況次第によっては褒め言葉とも取れます。もし証拠が残っていたとしても、その害意を証明するのは極端に難しくなってしまうのです。

通常、パワハラはこのように害意や悪意を証明するのが難しい形で行われます。すると、その害意・悪意を証明するためには、やはり圧倒的な量の証拠が必要となるのです。「頭のつくりが違うようですね」の一言だけでは判断は難しいかもしれませんが、何かの失敗をしたときにその言動が3ヶ月続いているとなれば、害意や悪意を認定せざるを得なくなります。

裁判においても、パワハラは証拠がなければまず認定されないと言われています。そして、証拠があっても認定されないことが多いと言われます。ですので、被害者が積極的に証拠を集めておく必要があるのです。

 

【3】証拠があると、味方・仲間を作りやすい

証拠は行政を動かしたり、裁判所に訴えをするときにも大切です。しかし、実際にそこまでする人は本当に一部でしょう。

しかし、それでもパワハラの解決に向かうには証拠を集めてほしいのです。

それは、証拠があることによって味方・仲間を作りやすいからです。

パワハラは被害者は孤立させられることが多く、またあなたが被害の深刻さを訴えても理解されないことがほとんどです。「パワハラを受けていて死にたい」と言えば、「死にたいと思うぐらいなら、やり返せばいい」と言う風なことを言われます。あなたの被害の深刻さは、言葉だけでは伝わりません。

そこで、役立つのが証拠です。あなたがパワハラ被害を証拠にとっており、その量が膨大であることを示せば、あなたが本当に困っていることが自然と伝わります。証拠集めをしているという事実が、あなたが本気で困っていることを示してくれるのです。

私は常々、パワハラ解決に必要なものは2つあると言っています。1つは証拠であり、1つは味方です。そして、味方を作るには証拠が必要です。つまり、パワハラの解決には証拠は絶対必要なものなのです。

ですから、パワハラ解決を目指すときは、特に加害者に対する制裁等を望むときは必ず証拠を取るようにしましょう。その証拠があることにより、仲間が増え、ハラスメント相談窓口もあなたのことを信用してくれるでしょう。

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。 あなたが望む「解決」の内容によって、あなたが取るべき行動は変わってきます。たとえば、あなたが望む結果が、転職することであれば証拠集めは不要になるでしょう。一方で、何かしらの社会的制裁を求めるなら、証拠集めが必須となってきます。そして、あなたが取りうる行動は、あなたが置かれた状況によって異なってきます。あなたが、上司からパワハラを受けている場合、同僚からパワハラを受けている、部下からパワハラを受けている場合、それぞれによって取りうる行動が変わります。

 

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