第4章 パワハラの証拠の集め方

パワハラの解決においては、証拠集めが必要です。

そのためには、相談先にどのような証拠が必要かを尋ねてみましょう。相談先が必要とする証拠を集めるのがもっとも効率的で確実な方法です。たとえば、労働局に動いてもらいたいときは、労働局に「どのような証拠があるとよいでしょうか」と尋ねるのです。

一般的に、パワハラ解決において必要となる証拠は、被害メモとボイスレコーダーです。この2つがあると、誰に相談する場合でもスムーズに話が進みます。なお、これは片方だけでなくて、両方を集めましょう。被害メモの欠点をボイスレコーダーが補い、ボイスレコーダーの欠点を被害メモが補うからです。

もし、味方や仲間がいる場合は、その人にも被害メモやボイスレコーダーでの録音をお願いしましょう。被害メモはどこまで言っても主観に過ぎないため、証拠の信ぴょう性が低くなりがちなのです。第三者が書いた被害メモがあれば、あなたが自分で書くよりは、信ぴょう性が高く判断されることが多くなります。

【1】相談先に、どのような証拠が必要かを尋ねる

最初は、相談することさえ怖いものです。人間はまず「自分の脅威とならないかどうか」を無意識に判断しようとしますので、それがあいまいな状況で自分にとって不利となりうる情報を出すことには、強い恐怖を感じるのが自然なことです。

そこで、最初は、相談先に「パワハラで相談をしたいが、どのような証拠や資料があるとよいでしょうか」と匿名で尋ねてみましょう。たとえば労働局に相談に行くならば、労働局に匿名で電話をして「パワハラで相談をしたいのですが、どのような資料や証拠をお持ちすればよいのか分からないので、教えていただけないでしょうか?」と尋ねてみるのです。

そして、このときの相手方の対応を観察するのです。

観察した結果、信頼できないと思ったら、別のところに同じように連絡を取ってみましょう。労働局の担当者が信頼できないと思ったなら、法務局の人権擁護委員に連絡を取ってみます。

このようにして、まずは相談先と匿名での接触を図ってみましょう。

そして、同時に、どのような証拠が必要かについても教えてもらいましょう。「事実を時系列でまとめた文章をお持ちいただけると、スムーズに進みます。」と言われるかもしれませんし、「被害事実をできるだけ詳しくメモしたものをお持ちください」と言われるかもしれません。相談先や担当者によっても指示内容は変わりますが、知っておいて損をすることは1つもありません。

つまり、相談しようと思っている相手方に「どのような証拠が必要か」と尋ねるだけで、あなたには2つのメリットがあるのです。1つは、あなたは相談先が信頼できるかどうかが判断できること、もう1つは、相談先が必要とする証拠等について知ることができること、です。

いずれにしても、相談先に相談をする場合には、予約なりの簡単な連絡が必要となります。ですから、そこで同時に「どのような資料や証拠をお持ちすればよいか」と尋ねておくのがよいでしょう。

【2】被害メモとボイスレコーダー

一般的には求められる証拠は、下記の2つです。

  1. 被害メモ
  2. ボイスレコーダー

被害メモは、自分が被害を受けた日時、場所、内容などを記録したメモです。詳しい書き方については、私が作った「被害メモテンプレート」を利用してください。無料メールマガジンに登録いただくと無料でダウンロードできます。

被害メモとボイスレコーダーは、両方ともあるのが理想的です。

被害メモは被害者本人が書いたものですので客観性が低く評価されがちです。証拠としての信ぴょう性が低く評価されます。どれだけ臨場感高く記録を取ったとしても「妄想だ」と言われる可能性が出てきます。

その客観性をボイスレコーダーで補います。ボイスレコーダーで録音されていれば、その事実を疑うことは、ほぼ不可能です。もちろん編集等は可能ですが「妄想だ」という主張はできなくなります。

それならば、ボイスレコーダーだけでよいのではないかと、思うかもしれません。しかし、ボイスレコーダーにも欠点があるのです。それは”内容検索が難しいこと”です。ボイスレコーダーにどのような内容が録音されているかは、聞いてみないと分かりません。そして、ボイスレコーダーで録音した内容の90%は、パワハラの立証とは無関係なもののはずです。物を投げられたり、怒鳴られたり、嫌味を言われたりした発言は、長時間の録音データの一部にすぎません。その一部のデータがどこにあるのかを知るのは、簡単なことではないのです。

そこで、被害メモが役に立ちます。たとえば「死ね」と言われた詳しい日時がメモされていれば、その周辺の録音だけを聞けばよいことになります。確認する範囲が、被害メモが1つあるだけで大幅に絞り込むことができるのです。

さらに、ボイスレコーダーと被害メモの内容が対応できることによって、被害メモの内容についても信ぴょう性が高まります。つまり、被害メモに書かれている内容は真実なのだろうという推定が働くのです。

たとえば、あなたがハラスメント相談窓口に行くとき、被害メモとボイスレコーダーを持って行って、被害メモを見せながら該当する録音を聴いてもらうとします。すると通常は、メモに書かれている他の被害も真実なのだろうと、担当者は思ってくれます。

このように、被害メモとボイスレコーダーの録音の両方があることによって、被害メモとボイスレコーダーの両方が最大活用されるのです。

もちろん、動画で録音できればそれに越したことはありません。ピンマイクカメラなどを用意することができるのであれば、それを使って録画しておくのがよいです。ただ、その場合も、検索を簡単にするために、被害メモは残しておきましょう。

【3】仲間に証拠集めを頼む

もし、あなたに仲間がいるのであれば、仲間に被害メモや録音を依頼しておくと、なおよいでしょう。

仲間の被害メモがあることによって、あなたの主張がより信じてもらいやすくなります。あなたが書いた被害メモは、あなたの主観が多く入っていると評価されます。しかし、仲間が書いた被害メモは客観的なものだろうと思われやすいのです。

すべてを記録してもらうのは大変だと思うので、月に数回程度でも十分です。基本的にはあなたが自分で被害メモを集めて、その被害メモの内容の信ぴょう性を高める補助として、仲間に被害メモをとってもらうぐらいがよいと思います。協力者にはあまり負担を与えすぎないように、気を付けましょう。

【4】証拠集めには、エネルギーが必要

証拠集めには、膨大なエネルギーが必要となります。

ですので、先に相談先に、どのような証拠が必要かを尋ねておきましょう。

一般的には、証拠としては被害メモとボイスレコーダーが重宝されます。

ボイスレコーダーで録音をするだけなら、比較的、楽ができます。しかし、ボイスレコーダーはまだまだ検索性が低く、どこにどんな内容が入っているかを調べるのに時間がかかります。そこで、被害メモで日時とその内容を特定しやすくしておく必要があります。

録音と被害メモを日々続けるのは、大変なことです。

しかし、1ヶ月程度もあれば、相談先の信頼を得ることは十分にできるはずです。十分な証拠を集めたら、改めて相談にいき、対応を求めるようにしてください。

【5】その場ですぐに被害メモをとる(平成29年6月13日追記)

「その場ですぐにメモを取る」は、攻撃と防御が一体となった優れた方法です。

メモ帳をいつも持ち歩いていて、パワハラ・モラハラ的言動があるたびにメモをするのです。暴言を言われたらメモ帳を取り出し、その場でその暴言を書き留めましょう。聞こえるように悪口を言われたら、メモ帳を取り出してその悪口を書き留めましょう。

被害メモをその場で取ることのメリットは2つあります。

  1. 詳細なメモをとることができる
  2. 加害者に対してのけん制となる

その場ですぐにメモを取ることによって、パワハラ言動の詳細を証拠に残せるようになります。リアルタイムでメモを取るのですから、思い出してメモを取るよりも比較できないほど具体的なメモを取ることができるのです。

さらに、加害者に対するけん制にもなります。メモ帳を持っている人間に対して、暴言や嫌味、悪口を吐き続けられる人はいないからです。その場で被害メモを取るようにしだすと、加害者から「訴訟でも起こすつもり?」のように嫌味を言われることもあります。しかし、そこでメモを取るのを止めてはいけません。メモを取られたくないから、加害者はメモを取ることに対して攻撃をしてきているのです。言い換えれば、メモを取ることが効果的である証拠が、「訴訟でも起こすつもり?」という発言なのです。

そもそも、パワハラは多くの場合「指導」の形を取ります。ですから、メモを取られて困ることなどないはずなのです。ですから、あなたは堂々と、メモをとればよいのです。

 

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
目次 はじめに 第1章 パワハラは、法律上の用語ではない 第2章 パワハラの定義 第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由 第4章 パワハラの証拠の集め方 第5章「パワハラ解決」とは何か 第6章「目的」と「状況」によって、取るべき手段は異なる 第7章 取るべき手段を実行できない理由 第8章 パワハラは学習性無力感を生む 第9章 リスクに備える 第10章 アサーションを身に付ける おわりに 【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。
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