第7章 取るべき手段を実行できない理由

下記実態調査によると、パワハラ被害者のおよそ40%は、パワハラ被害にあっていても「何もしない」という選択をします。そして、その理由は「何をしても解決にならないと思ったから」がおよそ70%であり、次に「職務上不利益が 生じると思ったから」がおよそ25%です。

平成 28 年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する 実態調査報告書

「職務上不利益が生じると思った」はリスク判断です。そして、「何をしても解決にならないと思った」というのは学習性無力感と呼ばれるものです。

パワハラの解決に向けて動くには、リスクという障害への対処と、心理的障害の対処の2つが必要なのです。

 

【1】およそ40%はパワハラに対して「何もしない」

パワハラを受けた人のおよそ40%は「何もしない」との統計調査があります。

そして、その理由のうち「何をしても解決にならないと思ったから」がおよそ70%もあります。次に「職務上不利益が生じると思ったから」がおよそ25%です。

 

【2】学習性無力感により、「何もしない」

何もしない理由のおよそ70%占める「何をしても解決にならないと思ったから」というのは、心理学上、学習性無力感と呼ばれるものです。パワハラ解決においては、その組織にハラスメント相談窓口があったり、行政機関が相談機関を設置したりするなど、さまざまな解決策が用意されています。しかし、そもそも「何をしても解決にならないと思っ」てしまっているならば、解決されることはありません。解決策があっても、学習性無力感に陥っている限りは解決は不可能になります。

つまり、学習性無力感に陥らないための、心理面へのサポートも必要となります。法的手段を知っていたとしても、それを実行に移すには心理的障害を乗り越えなければなりません。

パワハラ被害者は、ほぼ間違いなく「何をしても解決にならない」と思っています。ですから、そう思ってしまうのは仕方がないことです。

ですが、何をしても解決にならないと思っているなら、解決に向けた行動を行うことができません。

すると、パワハラはどんどんエスカレートしますので、本当に何もできない状況に追い込まれてしまいます。

いかに学習性無力感に陥らずにいるかが、解決の1つの鍵です。

 

【3】解決策の実行にリスクがあるから「何もしない」

心理的障害を乗り越えたとしても、解決策の実行にリスクがあるため「何もしない」という場合もあります。ですから、「職務上不利益が生じると思った」とリスクにも対処しなければなりません。つまり、職務上の不利益が生じないようにするか、もしくは不利益が生じても問題ないと思えるようにしておく必要があるのです。

会社が安心して相談できる体制を作るべきですが、それが整っていない状況では、自分でそのような状況を作る必要があります。たとえば、職場内に仲間を作っておく、もしくは転職先、または独立・起業する準備を進めておくなどです。

職務上の不利益というリスクに対して、その職務上の不利益を生じにくくすることと、もし生じたとしても許容できる状態を作り上げておくことが、パワハラ解決のもう1つのカギとなります。

 

【4】心理的障害と、リスクの2つの対処する

パワハラ解決に向かうためには、心理的障害への対処と、リスクへの対処の2つが必要です。

通常、リスクが大きければ大きいほど、心理的な障害も大きくなります。反対からいえば、リスクが小さくなればなるほど、実行しやすくなるはずです。

しかし、実際には”いつでも会社を辞められる”状態を作ったとしても、もしくは実際に会社を退職した後であっても、会社やパワハラ加害者に対して恐怖を抱いてしまい動けない人は多くいます。リスクが少なくても、恐怖によって身動きが取れなくなるのです。

ですので、リスクを減らし、備えるだけでは足りません。心理面への対応は必須です。

しかし一方で、心理面だけへの対応でも不足します。どれほど勇敢な人であっても、リスクという現実には、適切に対応せざるを得ないからです。

つまり、パワハラの解決においては両方への対処が必要となるのです。どちらか一方だけでは足りません。つまり、カウンセリングだけでは解決に向けて動くことはできません。そして、リスクに対処するだけでも解決に向けて動くことはできないのです。

もしあなたがカウンセリングなどを受けていて、それでも動けないなら、リスクに対応することを考えましょう。

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
目次 はじめに 第1章 パワハラは、法律上の用語ではない 第2章 パワハラの定義 第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由 第4章 パワハラの証拠の集め方 第5章「パワハラ解決」とは何か 第6章「目的」と「状況」によって、取るべき手段は異なる 第7章 取るべき手段を実行できない理由 第8章 パワハラは学習性無力感を生む 第9章 リスクに備える 第10章 アサーションを身に付ける 第11章 パワハラ後遺症に対処する おわりに 【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。
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