第8章 パワハラは学習性無力感を生む

パワハラに対して「何もしなかった」理由のおよそ70%が「何をしても解決にならないと思ったから」です。

wikipediaの説明を引用するのは好きではありませんが、wikipediaでは次のように説明しています。

学習性無力感(がくしゅうせいむりょくかん、英: Learned helplessness[1])とは、長期にわたってストレスの回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなるという現象である。他の訳語に学習性絶望感[2]、獲得された無力感[3]、学習性無気力[4]がある。

学習性無力感 – Wikipedia

パワハラ被害者は、長期にわたって回避困難なストレス状況に置かれています。そして、悲しいことに、その状況から逃れるための努力さえも行わなくなります。

「何をしても解決にならないと思ったから」というのは、学習性無力感に陥ったときの1つの典型的な言葉です。

 

【1】パワハラが長期化しやすい人の特徴

パワハラは誰でも受けるものです。過去3年以内に一度でもパワハラを受けたことがある人は、3人に1人もいます。

その中でも、パワハラが長期化・深刻化する人と、そうでない人がいます。データ上では、パワハラを受けたことがある人のおよそ4人に1人が、長期化する傾向が読み取れます。

この長期化する人には、一定の特徴があります。それは、パワハラを受けたときの対応が「立ち止まる」であることです。

パワハラは、自己イメージへの攻撃です。このような攻撃を受けたとき、人間の脳は「闘争・逃走」状態に入ります。

これは、簡単にいえば緊急事態に対応するためのモードです。「戦う」、「逃げる」、「立ち止まる」といった原始的な選択肢から行動を選ぼうとします。

この中で「立ち止まる」を選ぶ人、つまりは耐えてしまう人が、長期化します。

 

【2】耐え続けると、学習性無力感に陥る

パワハラは耐えても解決はしません。むしろエスカレートします。そして、長期化していきます。

すると、被害者は完全に学習性無力感と呼ばれる状況に陥ってしまうのです。つまり、解決のための行動さえとれなくなるのです。

解決のための状態を取れなくなるというのは、会社を辞めることさえできなくなるということです。よく相談を受けた人は、「会社を辞めたらいい」と言いますが、それさえもできなくなるのが学習性無力感です。

現状維持だけできるようになるのが、学習性無力感です。行動がとれなくなるのではありません。会社に行くという行動を取ることは「現状維持」なのでできるのです。パワハラに耐え、加害者に愛想笑いをすることは、意志を消耗しながらもできてしまいます。

だからこそ、自覚するのが難しいとも言えます。もし会社に行こうとすると身体が完全に拒否して、金縛りにあうぐらいであれば、誰でも気づきます。しかし、そうではなくて会社に行くことはできるし、仕事もある程度はこなせてしまうのです。

仕事に行くことはできるのですが、解決に向けた行動を行うことができない状態が学習性無力感です。

パワハラを受けている期間が長くなればなるほど、この状態に陥る可能性が高くなります。

 

【3】現状打破に向けた行動がとれているかどうかが重要

パワハラが長期化しているときは、その現状打破に向けた行動が取れているかどうかを自問しましょう。

もし現状打破に向けた行動が取れていないのでしたら、学習性無力感(学習性無気力)に陥っている可能性があります。

そして、自分が学習性無気力に陥っている可能性を自覚したら、そこからの脱出を考えましょう。

そのために誰でもできて、効果的な方法論がセルフトークのコントロールと呼ばれるものです。

 

【4】セルフトークのコントロールで、「自分ならできる」という感覚を作る

セルフトークとは、心の中の声のことです。黙読するときに心の中で発生している声など、発声していない心の中の声を、セルフトークと言います。

このセルフトークをコントロールすることが、学習性無力感を払拭するのに役立ちます。

そもそも、なぜパワハラによって学習性無力感に陥るかと言えば、加害者の言動によって自己イメージが下がるからです。

人は、他人からの言動を取り入れて自己イメージを作っていますが、他人から継続的に低い評価をされ続ければそれが自己イメージに取り入れられてしまうのです。

ですから、自己イメージを取り戻し、学習性無力感から脱出するには、他人からあなたへの言動を変えてもらうのが一番です。簡単に言えば、高く評価され続ける日々を過ごせば、誰でも高い自己イメージを持てるということです。

しかし、実際には他人の言動を変えることはできません。

そこで、セルフトークをコントロールするのです。

セルフトークは、他人からの言動と同様のインパクトがあることが心理学的にわかっています。

ですから、セルフトークをコントロールすることによって、自己イメージを変えるのです。

具体的には、心の中で、常に自分を高く評価し続けることを行います。現状に甘んじている自分に対しては「自分らしくない」と言い、現状打破のために動いている自分に「自分らしい」と言い続けるのです。「他人からこう評価してほしい」という言葉を、自分に対して言い続けましょう。

このセルフトークのコントロールによって、自己イメージを高くし続けましょう。

すると、本当に現状に満足できなくなり、自然と行動を起こすようになります。学習性無力感から脱出できるのです。

もちろん、他人の言動を変えてもらう方が効果的です。自分で自分に対して言っても、その言葉を信じにくいからです。ですから、もし本当に学習性無力感に陥っていて、本気でそこから抜け出したいときは、コーチングを受けてください。

コーチは、自己イメージを高めるプロフェッショナルですから、あなたを学習性無力感から救い出してくれるはずです。

【5】自己肯定感が下がると、行為の改善ができない(平成29年7月14日追記)

『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』という書籍があります。

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この本の中に、次のような一文があります。

《断酒したばかりで酒に手を出してしまった成人メンバーのうち、面接中に「恥の意識」をまったく表さなかった人たちがその後口にした酒は、4ヶ月で平均7.91杯だった。一方もっとも激しく「恥の意識」を表した人たち(上位10パーセント)は、その後の4ヶ月間に平均117.89杯飲んでいた。酒をやめられない自分を強く恥じている人の方が、立ち直ることががはるかに難しいのである。》(上記書籍から引用)

簡単に言うと、”「恥の意識」を持てば持つほど、断酒が難しくなる。”ということです。自分を恥じる行為は、行為の改善にはまったく役に立たないのです。

ですから、パワハラに対して対処行動を取れない自分を責めてはいけません。自分を恥じるのではなくて、「私らしくなかったな。次はこうしよう。」と考えるようにしてください。

もしあなたがパワハラを受けた自分にも責任があると思っているとしても、それはあなたの行為について思うべきことであって、あなたの人格や性格の問題ではありません。そして、自分の人格や性格だと捉えても、パワハラ解決には結びつきません。

ですから、「自分が悪い」とは思わないでください。

 

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パワハラ解決の基礎知識ーはじめに(目次)
目次 はじめに 第1章 パワハラは、法律上の用語ではない 第2章 パワハラの定義 第3章 パワハラの証拠集めが必要な理由 第4章 パワハラの証拠の集め方 第5章「パワハラ解決」とは何か 第6章「目的」と「状況」によって、取るべき手段は異なる 第7章 取るべき手段を実行できない理由 第8章 パワハラは学習性無力感を生む 第9章 リスクに備える 第10章 アサーションを身に付ける 第11章 パワハラ後遺症に対処する おわりに 【はじめに】 「パワハラ解決の基礎知識」のページでは、パワハラに関する心理・法律・経済を含む、総合的な基礎知識を取り上げます。 パワー・ハラスメントは、法律上は定義されていません。そのため、パワハラに該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。パワハラに該当するからではなくて、他の法律要件に該当するから、法的効果が発生するに過ぎません。 法律上の定義がないため、各行政が独自にパワー・ハラスメントを定義しています。現在、パワハラの定義でもっとも有名なものは、厚生労働省の定義です。 行政が出している定義に該当することによって、何かしらの法的効果が発生するわけではありません。しかし、パワハラ解決に向けて行政を動かすには、少なくともその行政が出しているパワハラの定義に当てはまらなければなりません。 そして、行政を動かすために、パワハラ被害に遭っていることを示す証拠が必要となるのです。厚生労働省に動いてほしい場合は、厚生労働省が出すパワハラの定義に該当すると証明するものが必要となります。法務省に動いてもらいたい場合も同じです。 そこで大切となるのが、パワハラの証拠の集め方です。パワハラにはさまざまな類型がありますが、その類型によっては証拠を集めにくいものも多く、戦略的に集めていく必要があります。 しかし、そもそも証拠を集めることが必要かどうかについては、考えておく必要があるでしょう。一口に「パワハラ解決」と言っても、そこには様々なものが含まれます。もっとも理想的な解決は、加害者が退職、または異動になり、あなたに対して損害賠償をして、かつ、あなたが職場に留まることかもしれません。もしくは、ただ加害者がパワハラ行為をストップしてくれれば、それでよいと思うかもしれません。
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