はじめに
パワハラ被害者を救うには、さまざまな知識と技術が必要です。
しかし、それよりも大切な前提条件があります。それはパワハラの現実を知っていることです。
パワハラを乗り越えた経験はなくても構いません。パワハラ被害を受けた経験があることが大切です。
パワハラ被害経験があることで始めて、相談者の認識している世界をリアルに共有することができます。バーチャル・リアリティを超える臨場感を持って、相談者が観ている世界を認識できるようになるには、そのリアリティの元となる経験が支援者にある必要があります。
しかし、支援者が相談者の現実をどれだけリアルに共有しても、それで解決に至るわけではありません。解決するためには、解決とは何かを定義し、そしてその解決が可能だという自信を取り戻してもらう必要があります。
このように相談者が”自分にとっての解決”を定義し、それが実現可能だと思えて初めて、具体的な解決策を助言する意味があるのです。
被害者の現状と目的を、しっかりと共有しているからこそ、解決策の助言ができるのです。
もちろん、解決策の助言にはさまざまな専門知識が必要となります。
しかし、専門知識が必要となるのは、相談者と、現状と目的を共有した後のことです。言い換えると、どれほど専門知識・技術があっても、現状と目的の共有ができない人は相談者を助けることができません。
この本では、パワハラ被害者を助けるために、
私は、行政書士という法律家ですが、パワハラ加害者に内容証明郵便を出すという主張には懐疑的です。なぜなら、それは私がパワハラ・サバイバー(被害経験者)であるためです。パワハラ加害者に内容証明郵便を送れば、確かに相手に対して警告はできるでしょう。しかし、加害者は「こんなものを送ってきやがった」と触れ回るでしょうから、いっそう不利な状況にもなりかねません。