「パワハラは、犯罪です」という言葉があります。
ですが、本当にパワハラは犯罪なのでしょうか。
この点について、法的に解説をしたいと思います。
ELSA International via Compfight
【1】犯罪となるパワハラもある
先に結論を述べれば、犯罪となるパワハラはあります。
たとえば、侮辱罪、名誉棄損、暴行罪、傷害罪に当たる場合はあります。
刑法
第三十四章 名誉に対する罪
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
たとえば、名誉棄損に該当する例としては、直近の上司から「社長と身体の関係がある人は、仕事が楽でいいよね」というウソを、言いふらされるような場合です。
これは「精神的な攻撃」に該当するパワハラ行為と言えます。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
たとえば、「バカ」「ノロマ」などと、公然と言われた場合は侮辱罪となります。
しかし、この2つの場合については、あなたが告訴をしない限りは、刑事上の処罰はされません。
加害者を逮捕してほしいなら、告訴が必要だということです。
ですので、実際に加害者が名誉棄損、侮辱罪で、逮捕に至るケースはかなり少ないでしょう。
退職後に、どうしても許せない場合でない限りは、まず考えられません。
言いかえれば、会社を辞めることになっても構わないと思えるなら、刑事事件化を目指すのも一つの手です。
(親告罪)
第二百三十二条 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
【2】病気にさせるのも、「傷害罪」に当たる
これはあまり知られていないのですが、傷害罪は、相手を病気にさせた場合も成立します。
「傷害」は、「傷害とは、人の生理的機能を侵害することまたは健康状態を不良に変更することであり、それがあれば外部的完全性を損なわなくても傷害である」と解釈されています。
ですので、故意に相手をうつ病やパニック障害など、病気に追い込んだ場合は、それは傷害罪に該当しうるのです。
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ただ、故意(未必の故意)を証明するのが難しい。
ですので、もしあなたの心身の不調が出始めたら、「このままでは心身の病気になりかねない」ということを、相手に警告しておくことが望ましいと言えます。
もちろん、このような警告を実践することは、事実上難しいのは知っています。
ですが、報復を考えているなら、このような準備は必須です。
また、因果関係を証明するのも難しいとされます。
そのため、もし病気に罹ってしまったら、心療内科等に通院し、「パワハラ行為が原因」という診断書を書いてもらえるようにお願いをしましょう。
【3】物を投げるのも、「暴行罪」
ここでもあまり知られていませんが、暴行罪は直接、身体に触れなくても成立します。
たとえば、物を投げてきたら、それは暴行罪になりうるのです。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
物を投げる行為も「暴行を加えた」に該当するということです。
このような知識を持っていないと、そもそも暴行罪に当たることを認識できません。
認識できないということは、加害者への制裁にも利用できないということです。
ですから、知っておいて損はないでしょう。
【4】刑事事件化すること、脅迫に使ってはいけない
このように、パワハラ行為には刑法に違反するものが、多々あります。
ですが、パワハラは犯罪だとは、やはり言いすぎです。
犯罪となるかどうかは、それぞれの条文に当てはまるかどうかで考えるしかありません。
また、加害者の行為が犯罪行為であるとしても、あなたが何をしてもよいというわけでもありません。
「刑事告訴されたくなければ、お金を払え」と言えば、恐喝罪に当たる可能性もあります。
弁護士等の内容証明は「法的手段も辞さない」という表現を好んで使うのは、恐喝にならないようにするためです。
加害者は、もともと相手の弱みに付け込むのが得意です。
ですから、あなたも足元をすくわれないように十分に注意してください。
そして、しっかりと正当に制裁を加えて、気持ちをスッキリさせたら、前を向いて進んでいきましょうね。