2019年5月29日、パワハラが条文上の定義を持ちました。
条文上、パワハラは「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されました。
条文上は、大きく分けて3つの要件があります。
1 職場において行われる言動であること
2 優越的な関係を背景とした言動であること
3 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
⇔業務上必要な範囲を超えた言動、かつ業務上相当な範囲を超えた言動
この定義によれば、上司の立場にある人が職場で「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」をすれば、それはすべてパワハラに該当することになります。
厚労省はこれまで「パワハラの6類型」を示してきました。
この6類型をすべて包摂する抽象的な定義だと言えます。
また、条文には「継続性」という要件はありません。
【1】「継続性」は不要
法務省はパワー・ハラスメントの定義の中に「継続的に」という文言を入れていました。
しかし、条文ではそのような限定はありません。
継続的になされるものでなくても、つまり1回限りのものであってもパワハラに該当することになります。
【2】「身体的・精神的苦痛または職場環境を悪化させること」は不要
厚労省は、パワハラの定義の中に「身体的・精神的苦痛を与え、または職場環境を悪化させる行為」という要件を入れていました。
そのため、労働者に対して身体的・精神的苦痛を与えないもの、または職場環境を悪化させないものは、パワハラには該当しませんでした。
しかし、法律上の定義では「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であれば、パワハラに該当することになります。
【3】被害者への不利益な扱いの禁止
パワハラ被害の相談を行ったこと等を理由として、不利益な扱いをすることは禁止されました。
【4】相談をしておくことが重要となる
相談を行ったこと等による不利益な扱いが禁止されました。
これにより、相談等をしておくことが重要となります。
相談等をしておくことで、組織としては解雇等の不利益扱いをしにくくなるからです。
そのため、相談等をした証拠を作ることが重要となります。
【5】証拠の必要性は変わらない
パワハラの定義が抽象的であるため、形式的にはパワハラに該当しやすくはなりました。
しかし、抽象的であるからこそ”パワハラに該当しない”とも主張しやすくもなります。
「職場において行われたものでない」、「優越的な関係がない」、「優越的な関係が背景にはない」、「業務上必要な言動である」、「業務上相当な言動である」と主張することで、パワハラに該当しないと主張できるからです。
ですから、パワハラを主張する場合には、証拠が必要であることには変わりありません。
法制化されても、証拠は変わらず重要です。
しっかりと証拠を集めて、相手方からの反論に備えておきましょう。