《糸島市消防本部内で、消防職員13人が集団で数年にわたり、約30人の同僚に暴言、暴行、パワーハラスメント行為などを繰り返していたもの》とされる事案で、パワハラ加害行為の中心人物とされる消防本部警防課、課長補佐(消防司令)、45歳男性に対して、退職手当(いわゆる退職金)が支払われることが、メールによる質問への回答で、判明しました。
http://www.city.itoshima.lg.jp/s038/010/010/010/010/20170304175202.html
被処分職員の処分内容については、下記のとおりです。
http://www.city.itoshima.lg.jp/s001/010/010/010/050/syobun01_20170303.pdf
これは、私がメールで糸井市に質問をし、回答を得たものです。
【1】分限免職とは何か
まず、分限免職とは何かです。
地方公務員法
(降任、免職、休職等)
第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
上記のとおり、分限免職とは、《その職に必要な適格性を欠く場合》に行われるものです。
これは免職の一種ですが、懲戒免職とは違います。
地方公務員法
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
つまりは、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合が、懲戒免職です。
全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があるにもかかわらず、その職を行う適格性がある場合は、通常は考えられません。
そのため、懲戒免職と分限免職の違いは、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があったかどうか、となります。
上記のパワハラ加害者は、その点では懲戒免職に当たる非行はなかったと判断されたわけです。
【2】全体の奉仕者たるにふさわしくない非行は、なかったのか。
今回、退職手当が支払われるのは、分限免職により退職となった、45歳消防指令の被処分職員です。
この点について、メールでの回答は次のとおりです。
2 仮に懲戒免職者が退職給付等を受けず、かつ分限免職職員が、退職手当等の給付を受けるとした場合において、非処分職員2を分限免職に留めたのはなぜでしょうか。
この度の分限処分を行った職員の処分について、本市の規定に基づく非違行為に該当するかが基準となりましたが、一部非違行為として認定はできるものの、懲戒処分による重い処分は困難であるとの結論に達しました。この職員の組織としての規律、統制、一体性、団結力を破壊する言動が一線を越えており、消防職員としての適格性を欠いていることから、分限処分(免職)としたものです。ご理解の程、宜しくお願いいたします。
つまり、非違行為はあったけれど、懲戒免職にすることは法的に困難だと判断したとのことでした。
では、処分内容を見てみると、懲戒免職にならなかったのが不思議なぐらいです。
(1) 職務専念義務違反
勤務時間中に、上司の面前でも堂々と、かつ頻繁に自席を離れ、喫煙室等で長時間雑談に興じ、職務に専念しなかった。(参考:平成 28 年の1日当たりの離席時間は、平均で 1.7 時間から 1.8 時間)
自席についているときも、職場のパソコンを利用して、グループの者達に宛てた私的なメールの作成に興じていた。(2) 職員の誹謗中傷、悪口
職場内において、自分が嫌っている職員(複数名)の誹謗中傷、陰口を、執拗かつ公然と繰り返し、後輩達がそれらの職員を慕うことも非難した。このような誹謗中傷を繰り返した。(3) 幹部職員への誹謗中傷、組織批判
職場内において、執拗かつ公然と、消防長、次長、署長ら幹部(歴代の幹部含む。)のことを「ポンコツ」「ボンクラ」などと誹謗中傷する言動を繰り返した。このような誹謗中傷を繰り返していた。
何か気に入らないことがあると、上司や幹部にも非礼、不遜な態度で食ってかかり、長時間にわたって不満をまくし立て、注意されても聞く耳を持たず、幹部や管理職員も本職員の対応に長時間を費やさねばならない状況があった。(4) 右翼、左翼発言
自らを「右翼」、気に入らない職員を「左翼」と言って敵視し、職員同士の対立関係をいたずらに煽り、職場及び組織の分裂を招き、職場の秩序を乱した。(5) 良好な職場環境の構築を妨害する行為
過去にパワハラの申出がなされたことがあったが、加害者とされた職員が自分のグループの者であったため、グループの者らと一緒に、申出をした職員を無視したり、パワハラ調査において証言した職員に、証言内容を問い詰めたりした。(6) 新規採用職員に対する暴言
新規採用職員に対し「辞めるなら早く辞めろ。」などと言って精神的に追い込んだり(当該職員はその後退職)、気に入らない職員をグループの者達と一緒に遠ざけて排除しようとした。(7) 人事評価を巡る対象者の一連の言動
人事評価における評価者に対し、長時間にわたり評価の在り方や点数の不当性に関する主張を執拗に繰り返し、評価を2度にわたって訂正させた。同じことを何度も長時間にわたって繰り返したことで、多くの幹部職員が堂々巡りの議論に時間を費やさねばならなくなり、他の職務に専念できない状況が生じた。(8) 職務命令違反
消防長からの職務上の指示を無視し、地方公務員法第 32 条が定める上司の職務上の命令に従う義務に違反した。http://www.city.itoshima.lg.jp/s001/010/010/010/050/syobun01_20170303.pdf
ちなにみ、消防司令という役職については、下記の総務省消防課のサイトが参考になります。
https://www.fdma.go.jp/neuter/topics/danketsuken/PDF/220226_dai2_07.pdf
課長補佐であり、指揮隊長であるとされています。
現場での指揮命令を出す立場として、当然にハラスメント防止義務を負う役職です。
その立場にある人が、好き勝手、傍若無人なふるまいを続けてきたわけです。
ハラスメントを自ら行って職員を退職に追い込み、むしろハラスメントの申告をした人間に対してハラスメントを行うだけでなく、毎日2時間近く職務を怠り、上司を公然とバカにして、上司の指示にも従わずいたわけです。
通常の会社なら、普通は懲戒免職です。
【3】加害者に退職手当(いわゆる退職金)が払われる
今回の処分は、懲戒免職を含む重い処分であり、その点についてはよい先例となったと、私は思っています。
しかし、上記のようなハラスメント行為を公然と執拗に繰り返してきた管理職にある人が、懲戒免職とはならなかったことについては、大いに疑問があります。
この人は、分限免職に該当するため退職手当(いわゆる退職金)が支払われることになります。
退職金を支払うに足りるような仕事をしたと言えるのでしょうか。
その退職金に見合うほどの損害を、人々に与えてきてると私は思います。
最後に、質問のメールをほぼ全部掲載しますので、お目通しいただけたらと思います。
なお、回答をくださった方個人に対しては、大変丁寧なお返事をいただき、感謝しています。
この度の消防本部職員によるパワハラ等の事案より、行政に対する信頼を損ない、大変なご迷惑とご心配をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。
ご質問をいただきました件につきまして、回答させていただきます。1 懲戒免職職員および分限免職職員は、いずれも退職手当等の給付を受けないのでしょうか。
本市は、福岡県退職手当組合に属しており、同組合の条例により、懲戒免職については退職手当は支給されませんが、分限免職については支給されることとなります。
2 仮に懲戒免職者が退職給付等を受けず、かつ分限免職職員が、退職手当等の給付を受けるとした場合において、非処分職員2を分限免職に留めたのはなぜでしょうか。この度の分限処分を行った職員の処分について、本市の規定に基づく非違行為に該当するかが基準となりましたが、一部非違行為として認定はできるものの、懲戒処分による重い処分は困難であるとの結論に達しました。この職員の組織としての規律、統制、一体性、団結力を破壊する言動が一線を越えており、消防職員としての適格性を欠いていることから、分限処分(免職)としたものです。ご理解の程、宜しくお願いいたします。